SHALL WE DANCE?

〝アラバスタ編〟の最終盤、〝麦わらの一味〟を逃がすため、海軍本部大佐〝黒檻のヒナ〟の前に立ちはだかったのは、〝バロックワークス〟のMr.2 ボン・クレー(ベンサム)でした。
実は、決戦を前に彼が放った「かかって来いや」という言葉は、英語版『ONE PIECE』において「SHALL WE DANCE?」と訳されています。
これは、彼が西洋における舞踊形式の一つ 「バレエ」の要素を多分に含んだ人物であることに由来します。
彼の用いる〝オカマ拳法〟は、バレエのように踊りながら技を繰り出すもので、「SHALL WE DANCE?」という英訳は、その戦闘の本質を見事に言い表したと言えるでしょう。
そして、このバレエ要素はボン・クレーを中心に、ワンピース作中、中でも〝ドレスローザ編〟にいくつも登場しています。
『白鳥の湖』

バレエとは、音楽と踊りで感情や意思を表現しながら劇を進行させる舞踊劇です。
ルネサンス期のイタリアを発祥として、16・17世紀のフランス宮廷で発達しました。
バレエ音楽は、チャイコフスキー、ラヴェル、ストラヴィンスキーといった、 歴史的な作曲家たちによって生み出されてきました。
中でもチャイコフスキーは「三大バレエ音楽」と称される傑作を生み出し、 その一つ『白鳥の湖』は、ボン・クレーの愛用する白鳥のコートに受け継がれています。

〝アラバスタ編〟にて、スパイダーズ・カフェに組織のエージェントが集結する場面、彼はフランス語で 「1・2・3」を意味するバレエのリズム 「アン(un)・ドゥ(deux)・トロワ(trois)」の掛け声とともに登場します。
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エージェントの集結を待つ間、彼は 「フェッテ(フェッテ・アン・トゥルナン:「回転しながら鞭打つ」の意)」と呼ばれるステップを披露しています。
軸となる片脚で立ちながら、もう一方の脚を鞭のように振り回して回転を続けるこの技は、『白鳥の湖』第3幕で黒鳥オディールが踊る32回転が特に有名です。

そして、Mr.1に繰り出した技〝白鳥アラベスク〟は、 クラシックバレエの基本姿勢の一つ「アラベスク」に由来します。
右手と左手を斜め上に、右足で体重を支えながら左足を斜め後方に上げるこの姿勢は、バレエの象徴的なポーズとして広く知られています。

バレエの世界では、ダンサーたちの実力や役割に応じて「階級」が設けられています。
サンジとの戦闘中に用いた「プリマ」という言葉は、「プリマ・バレリーナ(Prima Ballerina)」が由来で、これは特に高い実力を持つ女性ダンサーに贈られる栄誉ある称号です。
『眠れる森の美女』
『眠れる森の美女』は、フランスの詩人シャルル・ペローの童話を基に、振付師マリウス・プティパが台本化した「三大バレエ音楽」の一つです。
1890年、ペテルブルグのマリインスキー劇場で初演された本作品は、19世紀後半のバレエ・ロマンティックを代表する傑作とされ、同名のディズニー映画もよく知られています。
物語は、王女オーロラの命名式に招かれなかった悪の精カラボスが成長後の死を暗示する呪いをかけるところから始まります。
善の精リラの予言どおり100年の眠りについたオーロラ姫は、王子の接吻によって目を覚まし、華やかな結婚式で幕を閉じます。

〝ドレスローザ編〟にて、〝麦わらの一味〟の傘下となったキャベンディッシュ率いる〝美しき海賊団〟の船の名は、「眠れる森の白馬号」です。
この船の船長キャベンディッシュは眠り姫を目覚めさせた王子、そして愛馬ファルルは王子の乗る白馬のイメージが重ねられています。
『くるみ割り人形』
『くるみ割り人形』は、エルンスト・T.A.ホフマンの童話『くるみ割りとネズミの王様』を基に、プティパが台本を書いた「三大バレエ音楽」の一つで、1892年に初演されました。
物語は、少女クララがクリスマスの夜にくるみ割り人形と眠りにつくところから始まります。
夢の中でくるみ割り人形はネズミの大軍と戦い、クララの助けによって勝利を収めます。
王子となったくるみ割り人形はクララをお菓子の国へと案内し、2人は盛大な歓迎を受けます。しかしこれはすべて、クリスマス・イブのクララの夢だったのでした。

〝ドレスローザ編〟では、〝ドンキホーテファミリー〟の特別幹部シュガーの能力で姿を変えられた〝頭割り人形〟と呼ばれるオモチャが登場します。
この恐ろしい人形に愛馬をやられたキャベンディッシュが応戦したことは、彼が「三大バレエ音楽」の一つに由来した海賊船の船長であることと、決して無関係ではないでしょう。
『ドン・キホーテ』
『ドン・キホーテ』は、セルバンテスによる同名小説を翻案したバレエ作品です。
本作は、プティパがレオン・ミンクスの楽曲を用いて創作し、1869年にモスクワのボリショイ劇場で初演されました。
1900年には、振付師アレクサンドル・ゴルスキーがプティパ版の大幅な改訂を行い、現在上演されている演出のほとんどはこの改訂版を基にしています。
小説『ドン・キホーテ』は、騎士道物語を読み耽り、遍歴の騎士であるという妄想にとりつかれたアロンソ・キハーダが「ドン・キホーテ」と名乗り、老馬ロシナンテに乗って従者サンチョ・パンサとともに冒険を繰り広げる物語です。
夢想的に自己の理想へと突き進む人間の姿を風刺し、権勢と人気を誇っていた当時の騎士道物語を批判した作品でもあります。
一方、バレエ作品『ドン・キホーテ』は、スペインのバルセロナを舞台に、床屋のバジルと町娘キトリが親の反対を乗り越えて結婚に至るまでを描いた喜劇であり、ドン・キホーテ自身は脇役として登場します。

〝ドレスローザ編〟では、かつてドレスローザを治めていたドンキホーテ一族の兄弟、ドフラミンゴとロシナンテが登場します。
先代リク・ドルド3世から王位を簒奪したドフラミンゴが支配するドレスローザは、『ドン・キホーテ』の舞台であるスペインをモデルにした王国であり、ここにもバレエと〝ドレスローザ編〟の繋がりを見出すことができます。


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