『ビンクスの酒』
『ビンクスの酒』はスリラーバーク編で初登場した「海賊の唄」で、〝赤紙海賊団〟や〝ロジャー海賊団〟もこの唄を唄っていたという。
『ビンクスの酒』はいったい何を表しているのか。誰が何のために、そしてこの「酒」はどこに届けられただろうか。
この酒が示唆している可能性のある必ず誰かによって届けられる必要があった「物」が作中に既に登場している。
それこそが〝歴史の本文〟だ。
歌詞を見ると〝歴史の本文〟こそが「ビンクスの酒」である可能性が浮上する。今回は『ビンクスの酒』と〝歴史の本文〟の関係性について考察する。
別れの唄
『ビンクスの酒』は歌詞全体を見ると「別れの唄」であることがわかる。「ビンクスの酒」を届けに行くために海に出た者達は少なくとも2回以上誰かと別れている。
さらに言えば、「手をふる影にもう会えないよ」という歌詞から、この別れは「今生の別れ」であるようだ。「ビンクスの酒」を届けに行く彼らがもう二度と会うことのない誰かを唄っている。
歌詞によれば、海に出た海賊達が最初に別れたのは「つむぎの里」である。
この「つむぎの里」はおそらくワノ国のことである。
つむぎ(紬)とは「紬糸で作られた絹織物」または「紬の生地を縫製した和服」を指す言葉で、日本がモデルのワノ国が「里」という地域区分を唯一使用していることからも「つむぎの里」が存在していた国として最もふさわしいといえる。
ワノ国編で「つむぎの里」は全く登場しなかったが、かつてのワノ国が海中に沈んでいることが判明しており、〝空白の100年〟に存在したかつてのワノ国に「つむぎの里」が存在したのかもしれない。
また、1番に登場する「空にゃ輪をかく鳥の唄」はワノ国の大名家「光月家」の家紋を暗示している。
つまり、「ビンクスの酒」に登場する海賊達はワノ国の「つむぎの里」を最初に出航しているということになる。
「光月家」は〝歴史の本文〟に歴史を刻んだ石工の家系であり、ワノ国で作られたこの石を世界中に届ける唄が『ビンクスの酒』なのかもしれない。
一方で、5番に記されるもう1つの別れについては歌詞からは何との別れを指しているのかが全くわからない。
だが、もし「ビンクスの酒」が〝歴史の本文〟ならば、この別れは石を届けに行ったいくつもの島の人達との別れを表している可能性がある。
〝歴史の本文〟を届けた彼らは二度と会うことのない人々との別れを唄にしたのではないだろうか。
酒鉄鉱
ここまでの考察を見て、「ビンクスの酒」と石でできた〝歴史の本文〟が同じということに違和感を持った人も多いかもしれない。
なぜ〝歴史の本文〟を「ビンクスの酒」と呼んだかについては、まずこの石を届けに行くという事実を連合国(後の「世界政府」)に知られてはいけなかったことが理由の1つとして挙げられる。
そして、実は「酒」と「石」を繋げる物は既に作中に登場している。
青色の星には「酒鉄鉱」と呼ばれる鉱物が存在する。これはドレスローザの武器に含まれていた原産国が限られている特殊な鉱物である。
「酒の石」というものは現実世界にも存在し、ワインにみられる「酒石」は、ミネラルやカルシウムと酒石酸が結合してできたもので、「ワインのダイヤモンド」と呼ばれる。
この表現は「酒石」の「硬度」にではなく、上質なワインだけにみられる「希少性」と「価値」を表したものだが、これがダイヤのように硬い〝歴史の本文〟のモデルだとしたら面白い。
しかし、武器製造が可能な「酒鉄鉱」は、砕けぬ石〝歴史の本文〟とは矛盾する。
武器に「酒鉄鉱」が含まれていたということなので、純粋な「酒鉄鉱」の加工は不可能であるが、「酒鉄鉱」を含むことで強度が増すならば若干苦しいが何とか説明できる。
最初の海賊
「ビンクスの酒」が海賊の唄と呼ばれる理由は、
〝歴史の本文〟を船に乗って世界各地に届けた人々が「最初の海賊」
だからではないだろうか。
ワンピースと関連の深いテンプル騎士団の伝説の1つとして、フィリップ4世に解体させられた彼らが一方は石工として、もう一方は海賊として生きることになったというものがある。
伝説によれば、海賊として海へ出た者達が騎士団総長ジャック・ド・モレーの墓を掘り起こすと、頭蓋骨と交差した大腿骨が2本あり、これこそが海賊旗ジョリー・ロジャーの起こりとされている。
ロジャーの〝歴史の本文〟を探す冒険では、『ビンクスの酒』が唄われている。
石工の「光月家」と海賊の〝Dの一族〟は、テンプル騎士団の伝説がモデルの可能性があるため、〝歴史の本文〟を届けるために海へ出た者達が最初の海賊である可能性は十分に考えられる。
彼らの生き残りが『ビンクスの酒』を唄い続けた結果、この唄は現在も「海賊の唄」として唄い継がれているのかもしれない。
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