「ワンピース」において最大の謎ともいえる〝ひとつなぎの大秘宝〟の正体とはいったい何だろうか。その正体についての1つの仮説について考察する。今回は少し妄想的な考察となり、作者の尾田栄一郎氏の死生観とも相対すると感じられる部分があると考えられるので、単なる読み物としてお付き合いいただきたい。このような考察からもワンピースにおける重要な‟気づき”を得られると信じている。
「この世」の全てを手に入れた男
「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ…
探してみろこの世の全てをそこに置いてきた」
ゴール・D・ロジャー((出典:尾田栄一郎『ONE PIECE』第1巻第1話 集英社))
〝偉大なる航路〟制覇を果たし海賊王と呼ばれたゴール・D・ロジャーは死に際に「この世の全てをそこに置いてきた」と言い放った。
「そこ」とは一般的には最後の島「ラフテル」のことを指していると考えられており、ラフテルに眠る財宝は「この世の全て」と表現されている。
では、「この世の全て」とは一体何だろうか。少し、この言葉に注目していきたい。
一般的に「この世」というのは私たちが生活している現実世界のことであり、仏教では「此岸」という。この「此岸」という言葉には対義語が存在しており、それこそが「彼岸」である。
今回はこの前提を出発点として妄想を膨らましてしていきたい。
「この世」と「あの世」
「彼岸」は仏教でいう「悟りに至る修行」または「その悟りの境地や生死輪廻する現世(此岸)に対して煩悩を解脱した涅槃の境地」を意味する。
春分の日と秋分の日を中日とする各7日間(春の彼岸・秋の彼岸)のことを指すことから一般的にこの間に「墓参り」をする風習がある。
「彼岸」は人間的な世界を超越した世界で、つまりは「あの世」のことである。
ワンピースにおいて「あの世」といえばブルックが思い出される。彼は〝魔の三角海域〟で一度死んだものの、〝ヨミヨミの実〟の能力によって魂が「黄泉の国」から戻り、作中で唯一「黄泉帰り」を果たしている。
「黄泉の国」というのは『古事記』に登場する死者の世界であり、イザナギが死んだ妻・イザナミを追ってこの国に入ったと記されている。
また、パンクハザードでは「シノクニ」という毒ガス兵器も登場しており、「あの世」にまつわる描写はいくつかある。
他にも作中において「あの世」と関連付けられる描写はいくつも登場している。
地獄の王と冥王
ロジャーの右腕シルバーズ・レイリーの異名は「冥王」である。「冥王」とは「冥府の王」を意味し、死後の世界の王ということである。
これまでの妄想を踏まえるならばロジャーが「この世」の王の称号「海賊王」であり、レイリーが「あの世」の王ということになる。
ワノ国編ではルフィの右腕であるゾロが地獄をも切り伏せる「閻魔」という刀を手にし、「地獄の王」になることを宣言している。
「閻魔」とは閻魔大王のことであり、仏教やヒンドゥー教などにおける冥界の主の名称である。死者の生前の罪を裁くと言われている。
死
〝麦わらの一味〟をはじめとしてワンピースに登場する主要な人物はほとんどが過去に大切な人を失ったという経験を持つ。ルフィでいえばエース、ゾロはくいな、ナミはベルメール、サンジは母親であるソラなど家族に限らずとも彼らは彼らにとって大切な人を失っている。
また、〝麦わらの一味〟だけでなく、同盟を組んだトラファルガー・ローなども大切な人の死が描かれた。人の死は避けては通れないものであるため、誰でも大切な人を失った経験があることは間違いが、主要な登場人物にとって大切な人たちは過去回想などで印象深く描かれ、彼らの記憶に深く刻まれている。
また、400年前のジャヤには先祖の魂が宿るという「身縒木」が存在し、黄金都市シャンドラの鐘の音は彼らの先祖の魂が迷わないようにするという役目も果たしていた。
「俺は死なねェ」
ワンピースという作品はゴール・D・ロジャーという海賊王の「死」から物語が始まっている。海賊王の右腕シルバーズ・レイリーの言葉を借りるなら「不治の病」にかかったロジャーは自らにともった微かな命の灯を「大海賊時代」と呼ばれる業火に変えた。
そしてロジャーが船を降りるときのレイリーへの最後の言葉も「死」に関するものである。
これはロジャーの息子であるポートガス・D・エースがルフィに言った言葉でもあり、「不治の病」に冒されたドラム王国のヤブ医者Dr.ヒルルクの最後の言葉にも通じる部分がある。
「ひとつなぎの大秘宝ワンピース」には複数の意味がある!?
実は今回の説以外にもワンピースにおいて「ひとつなぎ」になりそうなものはいくつかある。
例えば、〝偉大なる航路〟と〝赤い土の大陸〟で分断された4つの海や隔絶された島、人種、種族などである。
もしかするとワンピースと呼ばれる秘宝はあらゆる意味を含んでいるのかもしれない。もしワンピースと呼ばれる宝が1つであってもそれに付随して「one piece(ひとかけら)」になるものは多いと予想できる。
作中に登場する死にまつわる描写や思想、死の国や蘇りにまつわる能力などは「あの世」と「この世」をひとつなぎにするための伏線なのだろうか。
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