「インカ帝国」と「シャンドラ」
空島編にて登場した伝説の黄金都市「シャンドラ」。この都市は1100年以上前に栄え、原住民である「シャンディア」の歴史の本文を守る戦いによって、800年前に滅んだとされる。
探検家モンブラン・ノーランドが発見したこの「黄金郷」は、ノーランド来訪直後の約400年前に「突き上げる海流」で空へ運ばれ、突如地上から姿を消した――。
「シャンドラ」のモデルとなった国や黄金郷の伝説はいくつか存在するが、中でも「インカ帝国」との関連は非常に深いものがある。
インカ帝国は南アメリカ北西部のアンデス高原に興った帝国で、かの有名な天空の古代都市「マチュ・ピチュ」もその遺跡の1つである。
インカ帝国は旧大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカとその周辺諸地域)との交流を持たず、独自の発展を遂げていたが、大航海時代真っただ中の16世紀にスペインの冒険家フランシスコ・ピサロとわずかなスペイン人によって征服された。
今回は「インカ帝国」と「シャンドラ」の関係について解説していく。
生贄儀式
インカ帝国では「カパコチャ」と呼ばれる生贄の儀式が行われていた。1999年にはアンデス山脈で約500年前に神に生贄として捧げられたとされる子供のミイラが発見されている。
ペルー南部の都市クスコにあるインカ帝国時代の遺跡「ケンコー遺跡」は宗教的祭礼の場としてっ使われていたようだ。
シャンドラの原住民シャンディアでは、島に住む大蛇「カシ神」に村の娘を捧げる生贄儀式が行われており、その場所は空島編において生贄の祭壇として登場している。
大蛇
インカ帝国最後の皇帝トゥパク・アマル(1世)はケチュア語で「高貴な蛇(龍)」を意味している。
また、インカ帝国では3つの動物が神聖視されていたとされ、コンドル、ピューマ、そしてヘビがそれぞれ天上の神、大地の神、地下の神として崇められていたようだ。
アニミズム
インカ帝国の宗教は創造神ビラコチャによって太陽、月、星、雷、大地、海の神々が君臨するアニミズム信仰である。アニミズムというのはあらゆる事物に霊魂が宿っているという観念・信仰のことである。
シャンドラではこのような自然信仰のアニミズムに加えて、祖霊信仰のトーテミズムも存在していたようだ。シャンドラでは先祖の魂が宿るとされる「身縒木」やトーテムポールが存在し、黄金の鐘の音も先祖の魂を導く役割を果たしている。
へそ
空島編で登場した挨拶「へそ」は作中では詳しく言及されておらず、非常に謎が多い。この挨拶はシャンディアではなくスカイピアの住人のものであるが、この言葉にもインカ帝国との関連が見受けられる。
インカ帝国の首都はクスコという名前で、実はクスコとはケチュア語で「へそ」を意味している。「へそ」という表現は「中心」という意味を持ち、クスコはインカ帝国の文化の中心都市であった。
コニスらが言っていた「へそ」にどのような意味が込められているのかは定かではないが、この言葉がインカ帝国と関連している可能性がある。
エル・ドラド
エル・ドラドとは大航海時代真っただ中の16世紀頃にスペイン人が南アメリカのアンデス地方にあるとしていた伝説の黄金郷のことである。
インカ帝国の皇帝は代々「黄金」に絶対的な価値を置き、領地から集められた金を首都のクスコに運び込んでいたようだ。
インカ帝国は歴史的にみても随一の「黄金」大国であり、伝説の黄金郷の名にふさわしい発展を遂げていた。
後にインカ帝国を征服したピサロはこの黄金に目をつけたと言われているが、その黄金がどこへ消えたのかはわかっていない。
太陽神
インカ文明の宗教では万物は創造神ビコラチャによってつくられ、太陽もこの神によってつくられたとされている。この太陽はインカ族の祖先とされ、インカ帝国皇帝は「太陽の子」であったそうだ。
太陽はケチュア語で「インティ」と呼ばれ、インカ帝国では収穫の感謝と豊作祈願を太陽に祈る行事「インティライミ(太陽の祭り)」が行われていた。この行事はスペインの征服後は行われなくなったが、近年復活している。
太陽の神殿で、民族衣装をまとった人々が歌い踊り、神に感謝することで祭りが始まる。
その他もろもろ
インカ帝国では外科手術や薬学が発達し、コカインの原料であるコカを麻酔剤として用いた「頭蓋穿孔」が行われていたとされる。主食はカボチャである。
空島編突入直後に巨大ガレオン船が空から降ってきた際に、「穿頭術」の跡がある人骨が発見されている。これは200年ほど前の南の海の一部地域の医術であるとロビンが説明しているが、「シャンドラ」の遺跡に向かう直前に描かれたことからもインカ帝国との関連を示唆しているのかもしれない。
広大な国土を持っていたインカ帝国が少数のスペイン人によって滅ぼされてしまった理由としては「内戦」と「天然痘」による国自体の弱体化が要因に挙げられる。
空島編では「ゲリラ」と呼ばれるシャンドラの土地を奪い返すために戦っていた「シャンディア」とエネルとその神官達の戦いが起こっていた。これは厳密には「内戦」ではないものの、関連している可能性がある。400年前のシャンドラで「樹熱」と呼ばれる病が流行っていたことも関連を示唆しているかもしれない。
また、「樹熱」に効く薬草を取りに行ったノーランドが地震による地割れに挟まれるシーンがあるが、アンデス山脈は元々、プレートがぶつかり合ってできた山脈ということもあって、クスコは何度も地震の被害にあっているという歴史がある。
このようにシャンドラの歴史にまつわる重要な描写が散りばめられた空島編では、「インカ帝国」に関連するものがいくつも登場している。
ワンピースでは現実世界に存在した国や地域、様々な伝承や伝説をモデルとして複数織り交ぜることで物語が作られていることが多いため、それらを調べることでさらなる関連が見えてくるかもしれない。
コメント